鬼を欺く男。 叙述トリックを使ったミステリーサスペンス。猟奇連続殺人鬼が追う模倣犯の正体とは?~殊能将之・「ハサミ男」

渡鬼2018シーン9「五月を欺くことに成功した勇」の巻

鬼を欺く男

TBS・渡鬼公式情報 Paravi(動画配信サービス) 渡鬼スペシャル2018はでレンタル視聴できます。 物語を検証してみる 幸楽で眞のためにこしらえてきた昼食などを両手に抱えて、勇の入院先の病院に戻ってきた五月。 特別室では眞から受け取った「遺産相続放棄に関する宣誓書」を感慨深い面相で眺める勇の情景。 五月に「おう、ご苦労さん」と労いの言葉をかけつつ、「遺産相続放棄に関する宣誓書」を布団の中に潜り込ませて隠す勇。 五月を欺く勇 五月:眞、来た? 勇:それがなぁ、さっき電話があって、ちょっと仕事でトラブってて今日行けなくなったって。 五月:何よ、また来ないの。 来る来るつって。 仕事とあんた父親とどっちが大事なのよ。 勇:眞は男だから仕事に決まってんだろ。 だからよく言っといたよ。 わざわざ見舞いになんか来なくてもいいって。 貴子さんだって子育てで精いっぱいだしさぁ。 だいだい大したケガじゃねぇんだからこれ。 出典: 感覚は人それぞれなれど「 右膝前十字靭帯断裂」で術後と言えば相応の大けがな印象。 とにかく眞夫婦にはお世話にならない方向で嘘も並べつつ調整を図る勇。 五月:冗談じゃないわよ。 眞は長男なんですよ。 親が困ったときは助けてくれるのが当たり前じゃないの。 何も貴子さんの世話になんないわよ。 あんた、大きな顔して世話になりゃいいのよ。 勇:いやぁ、俺は御免だね。 眞は仕事で外へ出てて、ほとんどいないんだぞ。 世話になんのは眞の嫁さんなんだよ。 んなの遠慮で気遣っちゃってお前疲れるだけだよ。 五月:貴子さんには何にもやらせませんよ。 勇:俺はなぁ。 子供の厄介になんのが嫌なんだよ。 こんな体になった時くらい、自分の好きにゆっくり療養したいんだ。 出典: 他人である貴子に気を遣うのが嫌な方向で勇が五月に調整中。 でも眞はやはり長男だから。 五月の言い分はごもっとも。 ただ、貴子にやらせるとかやらせないとか、そういう問題ではないんだよ。 五月:この脚でどこへ行くって言うんですか?行くとこないでしょ?しばらくこの病院に言って、ここに居させてもらいますか? 勇:病院はもうたくさんだよ。 出典: 大丈夫だよ勇。 急性期の治療がある程度終われば、嫌でも患者は退院させられてしまうのが昨今における急性期病院。 リハビリ病院に転院することは可能だと思うんだけど。 でも、勇としては病院はもう嫌みたいだし。 五月:じゃぁどこ行くっていうの幸楽へ帰れないし。 勇:どっか部屋借りようかなぁ。 ひと月ぐらい、のんびり自由に暮らせるとこ。 探しゃぁあるだろ? 五月:贅沢よ。 勇:今まで幸楽のために骨身削って働いてきたんだよ。 そのくらいのことさせてもらったってお前。 費用は店から出さしゃいいんだから。 出典: 幸楽もダメで、子供たちを頼れないとなると、部屋を借りるのも一案なのかも。 入院生活を続けたところで費用はかかりますからね。 五月:あんたも息子の嫁は苦手なんだ。 そうよね、結婚したら他人とおんなじよね。 出典: 見事に五月を欺くことに成功した勇。 五月自身、嫁の貴子とは上手くやれてないわけで。 勇と共感できて少々嬉しさを醸し出す五月(笑)。 場面が切り替わる前に 勇:お前、楽譜持ってきてくれた? 五月:えっ? 勇:おやじバンドの楽譜持ってきてくれって言ったろ。 五月:頼まれたっけ? 勇:えっ! 五月:えっ! 出典: このやりとりを経て場面は幸楽へ、なんじゃそりゃ(笑) あってもなくてもよいようなシーンですが、よい味醸し出す五月と勇。 余談の楽譜ネタに次いで。 これまた余談。 よい味醸し出した五月と勇と言えば、2017年にはSNOW企画がありました。 各賞受賞のみなさん、おめでとうございます! 主演男優賞 五月に嫁の貴子が苦手な印象を与えて見事に欺いた小島勇役の角野卓造さん。

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叙述トリックを使ったミステリーサスペンス。猟奇連続殺人鬼が追う模倣犯の正体とは?~殊能将之・「ハサミ男」

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しかしある日、の犯行をそっくり真似た手口で新たな殺人事件が起きてしまった。 知夏()と安永()は、の正体を突き止めるべく調査を開始する。 一方、管内で発生した殺人鬼の凶行に義憤を覚える若手刑事:磯部は、本庁から来たサイコアナリスト:堀之内()の目に留まり捜査陣に抜擢されるが、やがて想像を絶する意外な真相が明らかに…!映像化不可能と言われていたの原作を、鬼才・監督が大胆なトリックで完全映画化したサイコサスペンス・ミステリー!』 先日、書評家・翻訳家の氏がで、「ミステリ作家の氏が今年2月11日に亡くなりました。 享年49。 ご遺族の意向で伏せられていたそうですが、殊能氏と縁の深い雑誌『』の最新号に訃報と追悼記事が掲載されています」とつぶやいた。 といえば、1999年に『』でデビューし、第13回を受賞したである。 その後は『美濃牛』『』といった作品を発表するものの、長編小説は2004年の『キマイラの新しい城』を最後に発表が途絶えていたらしい。 死因や本名なども一切公表されておらず、最後まで謎の小説家だったんだなあ。 というわけで、本日はミステリー小説ファンの間で話題になり映画化もされた『』について取り上げたいと思う。 尚、今回のレビューは原作版と映画版の 『』に関する完全ネタバレと、ついでに 『』に関するネタバレも含まれているのでご注意ください。 原作は第13回を受賞し、更に宝島社「このミステリーがすごい! 」で第9位にランクインした長編である。 この小説が発表された当時、前代未聞の衝撃的なトリックに読者は驚嘆し、「絶対に映像化は不可能だ!」と大評判になった。 僕も初めてこの本を読んだ時、クライマックスのどんでん返しにビックリ仰天。 思わずもう一度読み返したほどである。 原作を読んだ人なら分かると思うが、小説版は 「本当に映像化不可能」な設定になっており、文章でなければ成立しないトリックが仕掛けられている。 にもかかわらず、数年後にあっさり映画版が公開されて二度ビックリ。 いったいどうやって? まず、小説版の『』がなぜ映像化不可能なのかと言えば、メインの仕掛けに 「」が使われているからだ。 「」とは、簡単に言うと「作者が読者を騙すために仕掛けるトリック」の事で、例えばミステリー小説には「密室トリック」や「アリバイトリック」など様々な騙しのテクニックが存在するが、いずれも作中の登場人物が刑事や探偵を欺くために仕掛けるものである。 それに対して「」とは、作者が読者に仕掛けるトリックであり、作中のキャター達が知っている事実を読者だけが知らない(気付かない)状況になっている事が最大の特徴なのだ。 読者は書かれている文章を注意深く読むものの、どうしても先入観や固定概念で物事を判断する傾向があるため、そこに隙が生まれ肝心な部分を誤認してしまう。 その結果、思いもよらない真実をつきつけられ「あっ!」と驚くわけだ。 では、なぜ映像化が難しいのかと言えば、全てを読者の想像にゆだねる小説とは異なり、映画は全ての情報が映像(または音声)によって観客に伝わってしまうため、ミさせることが極めて困難だからである。 例えば『』の場合は、男性だと思っていたら実は女性だった!という 「性別の誤認」がメインのトリックとして使用されているのだが、男か女かは映像で見れば一発で分かってしまうため、どう考えても文章でなければ成立しない。 「男のように見える女優をキャスティングすればいいのでは?」などという問題ではなく、あくまでも「劇中の登場人物は全員彼女をはっきり女性(しかも魅力的な)として認識しているにもかかわらず、映画を観ている観客には男性(凶悪殺人犯)と思わせなければならない」のだ。 果たしてそんなことが実現可能なのか? しかし、この難問を劇場版『』は驚くべき方法でクリアーしてしまう。 なんと、 最初から男性キャラと女性キャラを一緒に登場させているのだ!ただし、メインは女性キャラで、男性キャラの姿は劇中の登場人物には一切見えていない。 すなわち、演じる安永という人物はこの世には存在せず、演じる知夏の妄想が生み出した「脳内キャター」として描かれているのだ。 なんという大胆不敵なアレンジであろうか! このトリックにより、観客は「安永=」と思い込むが、実際は知夏が二重人格者で連続殺人犯、更に他の登場人物には安永の姿が見えていなかったという衝撃の真実が明かされ愕然!となるワケだ。 これを果たして「原作小説を完全映画化!」と呼んで良いものか?まあ、現実問題として「これしか解決策が無かった」ってことなんだろうけど、ここまで変更を加えるのであれば、このネタを使ってオリジナルのサイコ・サスペンス映画が作れたような気もするんだよなあ。 しかもこのトリック、良く考えると『』と構造的にはほぼ同じなのである。 どちらの映画も、の主人公を媒介としてこの世には存在しない架空のキャターを登場させ、その姿は主人公と観客には見えているが劇中の登場人物には一切見えない、という状況を作り出しているのだ(このトリックは結構使用頻度が高く、『』以外にも似たようなシチュエーションの映画がたくさんあるんだけど、ネタバレ回避のためタイトルは自重しときますw)。 というわけで、映画版『』は原作版とは全然違うトリックを使うことでどうにか成立させた感はあるものの、「映像化不可能と言われるものはやっぱり映像化が難しいんだなあ」と再認識した次第である。 尚、映画自体の評価としては、全般的に画面が古臭く、BGMも単調でエピローグが長いなど、あまり上等な出来とは言えない。 10年ぐらい前のTV用サスペンスドラマを観ているようで非常に安っぽい印象だ(は良かったが)。 せめてもう少しカッコ良く作ってくれれば、斬新なミステリー映画としてそれなりに評価されたかもしれないのに、ちょっと惜しい作品だと思う。

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タキオン・ソード ~朴念仁が欲した最強剣とお姫様のたわわな果実~(駿河防人)

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「あ、葉蔵さんだ~」 「おかえりなさい葉蔵さん!」 居候先に戻ると、子供たちが出迎えてくれた。 まだ時刻は夜明け前。 大人でもぐっすり眠っている時間だというのに、本当にかわいい子たちだ。 今の私は人間の姿をしている。 別に誰かをイメージしているわけではない。 鬼としての要素を抜いた状態だ。 強いて言うなら大庭葉蔵という人間が鬼に成らずに十八まで成長した姿といったところか。 どうやらこの体は姿形をある程度なら変えられるらしく、角や牙や爪を短くして隠す事に成功した。 目や瞳孔の色も変えることが出来、普通の日本人らしい目に変えることも出来た。 「ただいまみんな。 今朝はいいカモ肉が手に入った」 「わ~い、今日は鴨鍋だ~!」 「今日もまたお肉が食べられる~!」 喜んで肉を受け取る子供たち。 そんなことをしていると、家主である女性が私の後ろからやってきた。 「おかえりなさい葉蔵さん」 「ただいま戻りました。 今日は大体5円ほどの稼ぎです」 私は家賃と雑費込みとして、今日の猟で得た金銭を彼女に払う。 「まあこんなに!? すごい稼ぎね!」 「いえいえ、居候の身ですからこれぐらいさせてください」 本当にこれは大した稼ぎではない。 鬼である私にとって、夜の森で獣を狩るなど造作もない。 その気になればこの時代では命がけの仕事である鉱山発掘も楽々とこなせる。 今度募集があればやってみようか。 「でも無理はしないでくださいね」 「そうは言ってられません。 だって……」 「不死川さんは7人も子供がいるのに、女手一つで育てているではありませんか。 私にも何かさせてください」 猟から帰って来た朝、私は日が出る前に家へ入り、台所に立って料理を開始した。 この時代、女が料理するものだと思われるが、意外と男も料理するものだ。 現に、私の父は料理が好きだった。 そういえば、よく自分が創作したと言って父上に平成の料理を紹介したな。 いくつかは会社で売ったり研究すると仰っていたが、上手くいっているだろうか。 ああいったものは実際に平成で生きた私でしか理解出来ないものもあるのだが……。 「………よそう」 ああそうだ、今の私は不死川家の居候としているのだ。 他所の家など忘れてしまおう。 そんな下らないことを考えていると、後ろから不死川さんが来た。 「まあまあ、男がわざわざ台所に立つことなんてないのに」 「いいんですよ不死川さん。 私は居候の身なんですから。 これぐらいさせてください」 「いえいえ、葉蔵さんは十分やってくれています。 これ以上働かせたら罰があってしまいますよ」 「いいですよ、いきなり押し掛けた私を泊めてくれるのですからこれぐらいはしないと」 私は彼女の制止を振り切って料理を続行した。 前回、私は好き勝手に暴れていた。 夜や太陽が隠れた日、或いは陰に隠れて鬼を狩り、日が出ている時は自作の小屋の中で技の開発や料理に勤しむ。 こんなことをすれば普通に怪しまれる。 いくら大正の世といえど全く人がいないわけではないし、いくら夜の山中でも鬼と戦闘を行えば音などで気付かれる。 ここはもう藤襲山ではないのだ。 あそこのように人目も憚らず行動出来るわけではない。 だから私は人間としての身分を手に入れた。 鬼殺隊の目を、人々の目を欺くために。 「それに私は好きでやっているので。 むしろ私の楽しみを取らないでくださいよ」 日が昇ってしまえば、私はやることがなくなってしまう。 他の鬼と違って眠るとはいっても、たかが四時間寝るだけでは夜など来ないし、かといって山にいた頃のように鬼の力を試すわけにもいかない。 端的に言えば暇なのだ。 そんなときは獣を狩ったり、料理する等して時間を潰していた。 これもその一つである。 だから下民である彼女を気遣ったわけではない。 「ほらほら座ってください。 これから貴方は子供の面倒を見なくてはいけないのですから」 「そうですか、ではお言葉に甘えて」 私は彼女を気遣ってるわけではない。 「「「いただきま~す!」」」 朝食が出来たので、皆で鍋を箸でつつく。 今回の料理はなかなかの出来栄えとはいかなくとも、それなりに食えるものは出来たと思う。 まあ、所詮は素人なので味の保証は出来ないが。 「おいし~!」 「こんなに美味い肉食ったことねえ!」 やはり誰かと食べる飯は美味い。 こんなマズい料理でも美味しいと言って、笑ってくれると私も楽しい。 「葉蔵さん葉蔵さん! 今日は一緒にカブトムシ捕りに行こ!」 「そうだよ、葉蔵さんも一緒に来ればいいよ!」 子供たちがそう言うと、長男の実弥が茶碗を乱暴に置いて立ち上がった。 「馬鹿言うなお前ら! 葉蔵さんは日の光を浴びられねえんだよ! 我儘言ってっと、葉蔵さん出てっちまうぞ!」 「「それだけは嫌!」」 私は皮膚の病のため日の光を浴びられないと言っている。 実際に指先だけ日に浴びせ、溶け落ちる瞬間を全員に見せた。 すると全員大騒ぎした。 子供たちは泣き出し、不死川さんも慌てふためき、不死川家は大混乱に陥った。 それからは誰も私を日の光があるうちは外に出さないようにした。 まあ、時々こうやってあの時の出来事を忘れて私を誘おうとするが、実弥がこうやって怒鳴って止めてくれる。 「葉蔵さんはあのクソと違って稼いでくるし遊んでくれる。 これ以上贅沢言うな」 「「は~い!」」 元気に返事する子供たち。 しかしその中で一つだけ、元気ではない声が聞こえた。 いや、聞こえてしまった。 月明かりのない星空の下、村の外れで二匹の怪物が戦っていた。 煙の血鬼術を使う、烏賊を人の形に無理やり押し込めたかのような異形の鬼、煙羅。 頭部から赤い針のような角を生やす美しい鬼、針鬼こと葉蔵。 いや、戦いと言い切るには少し語弊がある。 それは戦いではなく狩りだった。 明らかに己を殺す気で来ている葉蔵に対し、煙羅は己の血鬼術を行使して逃げていた。 己の血鬼術である煙をばら撒いて姿を隠す。 葉蔵の血針弾から逃れようと、煙幕を張り続ける。 そして、煙羅の消極的な動きとは対象的に、葉蔵の動きには一切の迷いがない。 むしろ甚振る猫のような行動。 どうした、煙をばら撒くことしか能がないのか。 もっと私を楽しませろ。 そう言ってるかのように針を飛ばして走鬼の反応を見る。 「……もうないのか」 どうやら目の前の鬼は本当に煙に巻くことしか出来ないらしい。 ならば用はない。 ここで死ね。 葉蔵の赤い瞳が光り、煙羅を睨みつける。 獲物を仕留める捕食者の瞳。 その眼に走鬼の身体が竦む。 バンッ。 十発連続で放たれる弾丸。 視界が悪いが関係ない。 このうちの一発だけでも当たれば十分だ……。 「かッ……」 「…………!!?」 そのうちの一発が外れ、いきなり木陰から現れた男に命中してしまった。 ほんの些細なミス。 いや、こんなものはミスにすらならない。 彼の目的は鬼を食らうことで人助けなどではない。 むしろ、こんなとこにいた人間の方が悪い。 特に嘆く必要などない。 葉蔵の鬼としての驚異的な視力が、流れ弾の当たった男の姿を捉える。 どこからどう見ても貧民。 少なくとも、いなくなったところで騒ぎになるような人物ではない。 この時代、人がいなくなるなどよくあること。 それが貧しい者なら猶更だ。 その上こんな夜遅くで出歩くような人間だ。 マトモなわけがない。 よって気にする必要などないのだが……。 「…………」 葉蔵はその死体に近づき、そっと顔に手を翳した。

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