動か ない カカシ。 はたけカカシのハッピーライフ

NARUTO筋肉伝

動か ない カカシ

「あのね、イルカ先生、そういう態度ばっかりとってると、いい加減オレも腹が立ってくるの分かるでショ?」 「そういう態度とらせてるのはどこの誰だってんです!無神経なこと言ってるのはカカシさんの方でしょう」 「つまりイルカ先生はオレのことそんな好きじゃないんじゃないってことですか。 ま、オレはそれでもいいですけどね。 これっきりっていうのもアンタにはいい薬かもしれない」 「…別れるって言いたいんですか」 「そういう選択肢もありえるってことですよ」 そういう余裕綽々な態度が気に食わないってのに。 どこまでも神経逆撫でするような言い方をする。 イルカは平然と別れても良いと言っている銀髪の上忍を唇を噛み締めて睨んだ。 そもそもこの喧嘩もカカシがどこぞの女と寝たことが原因だ。 それを問い詰めたらあっさり認めて、反省の色ひとつ無くイルカと交わろうと言ったのだ。 誰が他の女と寝た後でやるか。 素直に怒ったらこの状況だ。 だがイルカはカカシに惚れていた。 初めて会って中忍選抜試験について言い争った時は印象最悪だったが、しかしその後のカカシとの接触でその印象はガラリと変わった。 最悪だったのが正反対に転換したのが手伝って、思い切りカカシに恋した。 くそ、やっぱり最低な人間だと思うのに、別れるとか言われると口を閉ざしてしまう。 せっかく手に入れた恋人が他の人間と関係するのはかなり堪える。 もう何回同じような会話を繰り返しただろう。 そのたびに我慢して許して、関係を維持して。 不毛だ。 こんなこと許してるなんててんでオレらしくない。 絶対オレらしくない。 手放すか?カカシさんとの恋人関係を。 「そんな怒らなくていいじゃないですか、イルカ先生。 ちゃんと体も洗ったし清い体ですよ。 それに心はイルカ先生だけですから。 許して、ね?」 別れても別れなくてもどっちでもいいと言うカカシは、優しい声でニコリと笑みを浮かべてイルカに囁く。 それもどこか嘘めいている。 そんなことずっと前から分かっていた。 男のオレをすんなり受け入れた時から、オレの半分もオレのこと好きじゃないんだってことくらい。 そんなこと。 全部知ってたさ。 うつむいたイルカは怒っているのか泣いているのか自分でも分からなかった。 ただ悲しいということは自覚できる。 別れるのがいい薬。 それはカカシとの関係にとってのことを言っているんだろうか。 それともイルカのこれからの人生にとってのいい薬だとでも言っているのか? 今の関係をそれでも手放したくない欲求ともう開放されたい欲求と。 そして出た言葉は。 「こんな態度のオレに腹立つんでしたら、どうぞお好きなように」 イルカはカカシが触れてきた手を振り払って言い切った。 限界だとか、許せないとかそうことじゃない。 そんなこと思えるほど自惚れていない。 何故ならもともとこの人はオレのことなどそんなたいして好きじゃなかったのだ。 「何開き直ってんの」 カカシの声が低く剣呑なものに変わった。 だがそんなもの怖れるに足らない。 イルカは黒い瞳に力をこめてカカシを見つめた。 全てを覚悟してのひとことだ。 常識に包まれたオレが好きにしていいということは。 カカシさんとの関係を絶つことも厭わないってことだ。 嫌いなわけじゃない。 関係が絶えるだけのことで、オレの想いはずっと枯れるまで続いて。 枯れるまで続くのか?それこそ一途に。 この銀髪の上忍を?やばい、涙が出てきそうだ。 「オレはカカシさんのこれっきりっていうのを受け入れます」 「受け入れますって、ねぇ、イルカ先生」 呆れたようにまた手を伸ばしてくるカカシに、触るなと体をかわす。 その態度にムッとくるものがあったのか、カカシは手を引っ込めた。 「あ、そう。 そういうつもり。 これっきりでもい~んだ」 そう言うカカシの冷めた目に愛情のカケラも見つけることができず、イルカはこれから本当に別れることになるんだろうと確信した。 それも自分が納得して出した結論だ。 仕方ない。 だが絶対にこの場で涙など見せたくはない。 「あの時オレが告白したのがおかしかったんです。 そう思うことにします。 これからは文句つけるヤツもいなくなってスッキリするんでしょうね」 自分で言っていて、確かにそうだと思ってしまった。 付き合ってる人間から自分の行動をとやかく言われるのはイルカとしても鬱陶しいものだ。 ましてや可愛い彼女ではなく、自分のような男から小うるさく言われたくないだろう。 それもまた世間一般の感情じゃないか? ああくそ、そしたらオレが悪かったみたいじゃねぇか。 浮気するって行為が一番最低なはずなのに。 悲観的なことをぐるぐる考えてる時は、口を開くとロクなことを言いかねない。 ここは潔く引き下がるしかないなとイルカは思った。 大きく息を吸い込んで宣言する。 「じゃあどうも。 今までありがとうございました!」 これで終わりだ。 後でいろいろ考えて、落ち込み激しいオレだから泣いちまうかもしれないが、それはそれでスッキリしていい。 どうせ忘れることなんかできないんだ。 「…」 黙り込んで突っ立ったままのカカシに、イルカは帰らないのかと見遣る。 カカシは固まったように動かずにどこを見ているのか視線が何もないところを見ている。 ここはイルカの家だ。 これっきりにするならさっさと帰ればよい。 動かないカカシにイルカが声をかけようとすれば。 「…本当に別れるんですか」 ボソッとカカシが焦点の合わない視線で呟く声が聞こえた。 別れるつもりなのはカカシのほうだろう。 今まで何度も別れないでくれと言っていたイルカが、好きにすればいいと言ったことに感動でもしてるのか?嬉しすぎて? 「イルカ先生、オレのこと嫌いになった?」 イルカに向いてカカシが問う。 いつもになく余裕のない気弱な顔をしている、と思った。 何だかこっちが三行半をつきつけたみたいじゃないか。 逆だ逆。 カカシがもう一度ゆっくりと手を伸ばす。 壊れ物でも触るようなその動きに避ける気も起こらなかった。 そっとイルカの頬に手を添えると、拒まれなかったことにカカシはホッとしたように目を細めた。 相変わらず綺麗な顔立ちをしている。 イルカは近付いて視線を合わせているカカシに見惚れた。 やっぱり好きだと困ったように苦笑いが浮かんでしまう。 これっきりにしてもいいと言った言葉を少しくらい後悔しているんだろうか。 「キス、してもいいですか?」 「キス?」 別れるのに?と言おうとして止めた。 最後の、ってやつだろうか。 カカシは謙虚に聞いてくる。 今までそんな伺うような言葉を聞いたことはない。 毎回余裕の表情で誘うように言葉を放つ。 キスしたいの?とか何とか。 思い出して苦笑いが浮かんだ。 イルカは変わらずカカシが好きなのだ。 断る理由も無い。 別れ話をしてるのにおかしいと言えばおかしいが。 これが最後になるなら。 コクリと頷くと、カカシはまた安心したような表情を浮かべた。 いちいち様子を見る子供のようだと内心驚いてカカシのキスを受け入れた。 優しいキスだった。 イルカの鼓動が早くなる。 甘やかしてまたオレに別れないと言わせるつもりだろうか。 そう思わせるような口付けだ。 まさか、な。 イルカは自分の考えに笑った。 オレとこのまま付き合ったってこの人苛立つだけだって。 とっかえひっかえいろんな女といい関係になってるんだ。 これ以上イルカが引き止めたところで同じことの繰り返しだ。 「…すみません」 唇が離れた後、囁くようなかすれた声でカカシが言った。 何に対して言っているのか。 キスしたことか?女と寝たことか?別れを受け入れるってことか? もう今さら。 そう思っていたら、銀髪の上忍の頬に光るものが見えた。 「…っ!カカシさんっ!?」 何だこの人! 「何泣いてんですか!」 「すみません、ごめんなさい、イルカ先生」 止まることなく流れ落ちる涙を拭おうともせず、カカシはまた謝った。 何だか分からないがとりあえず慰めないといけない気がしたから、カカシの背中に手を回してポンポンと叩く。 「何を謝ってんですか、女とのことを言ってんですか?もういいんですよ。 アナタは今日から自由なんですから。 謝ってもらう権利を放棄したのはオレです。 気にしなくていんですよ」 泣きたいのはこっちだとイルカは思う。 まだカカシのことが好きで、数分前まで恋人だった人間を何で慰めないといけないんだ。 そう思っていたら、突然強く抱き締められた。 「好きです。 別れるつもりなんてこれっぽっちもありません」 それからまたごめんなさいと言う。 好きです。 だって? 「…そんな言葉今さらいりませんよ」 とってつけたような告白なんか辛いだけだ。 カカシがイルカを抱きしめる力が強くなった。 呼吸が苦しくなるくらいだ。 離れるなと言っている子供だと思った。 こんなに必要だと体で表現されたことは今までなかった。 イルカが告白してからずっと。 「もう他の女と寝たりしません。 イルカ先生を試すようなことはもうしないと誓いますから」 だから。 捨てないで。 懇願に似た涙声だった。 演技じゃないかと思うくらい、イルカを抱きしめた銀髪の上忍は情けない声を出してイルカに強請った。 もしかして。 もしかしてこのヒト。 「試すって、何試してたんですか?」 「…」 カカシは黙っているが、言葉どおりだとすれば。 もしかしなくても。 このヒト、オレのこと本気ですごい好きか? 馬鹿馬鹿しく子供じみた手を使って、オレを試したかったとか。 アホみたいに何回も何回も。 そういう。 「イルカ先生、ごめん、何言ったらいいのか分からないです…でも謝るしかオレには…」 カカシが困ったようにずずと鼻を啜りながら呟いた。 カカシの中でかなりこんがらがっているらしい。 何言っていいか分からないだって、なあ? オレはカカシさんが好きで、カカシさんもそうだっていうなら。 「赦します」 その答えに、ガバリと体を離してまじまじとオレの顔を伺うカカシはこれまでのイメージとは随分違って子供っぽい。 もう長く付き合ってたつもりだったってのに、この人のこんな所を見逃してたなんて。 「本当ですよ」 ニコリと笑えば。 カカシは安堵した表情を浮かべた。 実はいつも強がってたんじゃないかと今この瞬間分かってしまった。 クールな性格も形無しだ。 これまで何度も煮え湯を飲まされてきたが、ホントしょうがない。 オレは美形と子供には弱い。 とりあえず、このカカシさんの言葉が本当かどうかを見極めないといけない。 一度断ち切ってもいいと覚悟を決めたからには、また信じるにはなかなか時間がかかるもんだ。 その時ドサリと音がした。 「え!カ、カカシさん!!どうしたんですか、何倒れてんです!」 後で聞けば、安心して気が緩んだら意識が無くなったんだそうだ。 別れる一歩手前。 危機一髪でした、とへにゃりと笑って話す銀髪の恋人は、あれから一度も他の女と噂になったことがない。 実はイルカが告白する前からイルカのことが好きだったんだそうだ。 その時のことを話すカカシは照れたような困ったような顔をしていた。 恥ずかしいんですが、本当にアナタのことが好きで。 告白されて頭が真っ白になって。 付き合い始めても好きだと思うほど心配で。 アナタがオレを切り捨てないという事実が嬉しくて。 そしてカカシがイルカへのゾッコンさを告白してから。 「何かこの人嫉妬深くなった気がするんだよなあ」 イルカは小さく溜息を落として、幸せそうにイルカの膝で寝ているカカシの頭をそっと撫でた。 女絡みのケンカは減ったが、逆にカカシの無駄な嫉妬のせいで口論が増えた。 ガラリと変わったカカシに驚かないでもないが、それで嫌いになるかというとそんな訳もない。 「でもまあ」 こういうのも。 END.

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カカシ放置しようとして修練の書を使ったのにカカシが起動しません【黒い砂漠Part2442】

動か ない カカシ

途中で足が限界にきて転げそうになり、ゆっくり歩を止める。 もうずいぶんと走った。 追ってくる姿はどこにもない。 うまく逃げおおせたようだ。 目の前には桟度橋があって、カカシの家からかなり遠くまで来たことが分かる。 自宅はもうすぐで、火影の家はもっと近い。 ここまで来れば大丈夫。 そう思ったが、とにかく火影の家に逃げ込むのが先決だ。 同時に喜びも。 尻尾を上げ、イルカは意気揚揚と橋を歩き始めた。 遠くには火影の家の屋根が見えて、ここからは一直線の道だ。 あとは走り抜けるだけ。 動かなくなった自分の足を見下ろして、考える。 知っている。 はっきり言って自分は被害者で、人間に戻りたいと思うのはごく当然のことである。 なのにどうして、人をペット扱いしていた非常識な少年のことを考えるのか。 あんな奴、天罰が下ればいい。 なりふり構っていられない現状ではあるが、つまるところ自分は、こっそり逃げ出すのが嫌なのだ。 忍の世界で、しかも、危険な暗部に属する少年は、ひょっとしたら明日死んでしまう身かもしれない。 世が世なら、それは自分にも言えることだが、別れは常に自分たちの隣にある。 残してきた少年のことがどうしても気にかかり、イルカは後ろを振り向いた。 でも、それほど悪い人間じゃないと、いつしか気づいていた。 戻って見つかることに恐れがないわけではない。 けれど、このままでは気になって帰ることができない。 普通であれば問題ない。 安心して帰られる。 イルカは自問に答えられず耳を伏せた。 わからない。 カカシの元へ。 *** 最後に見た場所に、カカシはもういなかった。 カカシと話していた魚屋の主人の足元へ行くと、「あれ? さっきの坊主の犬だね」と頭をがしがし撫でられた。 主人の口ぶりに、イルカはほっと安心したが、同時に少し胸が痛んだ。 そんな意味の分からない落胆に驚き、慌ててぶんぶんっと頭を振る。 これでいい。 別にいい。 イルカは勇んで歩き始めたが、足は正直だった。 さっきとは打って変わって、鉛のように重い。 結局、とぼとぼと人波の中を歩いていると、白いものが視界が入る。 冷たい風に空を見上げると、雪が降り始めた。 初雪に喜び合う友達は、今ここには一人もいない。 仕方がない。 カカシの家に、ちょっとだけ様子を見に戻ったら、今度こそ帰ろう。 自分でも、どうしてこれほどカカシにこだわるのか説明がつかなくなっていた。 振り回されるだけの体はすっかり冷え切って、どんどん降ってくる雪に足が痺れる。 こんな雪の日は、家の中で暖かく過ごすのが正しい過ごし方だ。 間違っても、とぼとぼと雪の道を歩かない。 やがて見えてきたカカシの家に、イルカは茂みの中に隠れながら移動した。 足音は雪が消してくれる。 気配を消すのは難しかったが、雪に急いで帰宅する通行人が多く、目立たなければ気づかれることはない。 茂みの傘を借りて、イルカは匍匐全身をしながら慎重に家が見える位置まで行った。 出て行った時と同じ格好で、買物袋まで持ったまま。 勝手に尻尾が動いたが、イルカには気づく余裕もない。 カカシがもしも自分を探していれば、また逃げたかも知れないが、それは分からない。 でも、こんな状況は考えなかった。 ただ、待ってるなんて。 イルカは悩んだ。 その間にも、降り積もる雪は動かないカカシの体にどんどん積もっていく。 イルカには茂みの傘があるが、あのままでは風邪をひいてしまう。 それは、心の奥底にあった、自分のまぎれもない本心だ。 同情かも知れない。 友達になりたいけれど、人間と犬じゃおかしい。 自分は犬じゃないんだから。 彼が犬の自分を待っているのなら仕方がない。 が、 ぴく、と耳が動く。 口布に覆われた唇は少しも動かないけれど、でも、聞こえる。 白い弾丸のように茂みから転がり出てきたイルカに、カカシが視線を向ける。 無表情な目が怖くて、途中から歩みは遅くなったけれど、イルカはその足元に座った。 見下ろす目には何も浮かばない。 イルカは飛び出してしまったことに少し後悔しながらも、じっと逸らさずにその視線を受け止める。 聞いたことのない冷たい声音。 まるで見えない壁がそこにあるようで、イルカは悲しさに耳を下げる。 問いかけられた言葉も、難しすぎてとても説明しきれない。 正直、寒さによる幻聴ではなかったかと自分でも疑わしいが、 (僕を呼んだ) 声はしないけど、たしかに聞こえた。 その声に、おもわず飛び出していたのだ。 なにより、自分は犬だというのに。 そんなことを真剣に考えていたけれど、ふいにぶるっと震えが走り、小さなくしゃみが出た。 雪はいよいよ本降りになってきた。 鼻についた雪を払おうとすると、上から伸びてきたカカシの手に抱き上げられる。 その手は雪に負けないくらい冷たかったけれど、カカシの心臓近くに押し付けられたイルカは服の中の温かさにうっとりした。 ぶんぶん、と尻尾が動くと、カカシのため息が聞こえる。 どういう意味のため息か。 イルカは気になったけれど、カカシはそれ以上何も言わなかった。 それがいったいどうしたことか。 まるで本当の家に帰ってきたかのように、 イルカの心は落ち着いていた。 *** 再びカカシの家で寝泊りを始めたイルカは、以前とは異なる生活に少し首を傾げた。 何より、毎日の修行が無くなったことは大きい。 ためになるとは思えない苛めにも似た修行が無くなるのは嬉しいが、本格的にペットにするつもりなのかと内心びくびくしていた。 しかし、カカシはペットという言葉を一度も口にしなかった。 そんなカカシの異変に、イルカはなるべく傍にいるように心がけた。 常にぺったりとカカシの傍にいると、撫でてくれる手はうっとりするほど優しい。 優しい、というのが最大の異変である。 「メシ、作る?」 そう言って、買った時のまま無造作に冷蔵庫に入れていた食材を使い、まともな食事を用意してくれた。 一応料理もできるのかと感心していたが、時々魚を洗剤で洗おうとしたりするので監視は必要だった。 不器用に人間らしい食べ物を料理する隣で、イルカは尻尾を振りながら観察兼応援をしていた。 簡単な料理が出来上がると、イルカは食器を頭に乗せて運ぶ。 テーブルが無いのでそのまま床に置くことになるが、カカシと一緒に食べられるならどんな場所だっていい。 一緒にまともなご飯を食べられることに、イルカは大満足だった。 その他に、買出しにも一緒に出かけた。 あんなことがあった後だから、もう外には出してもらえないかと思ったが、カカシは玄関の扉は簡単に開けてくれた。 初雪は長く続き、二日経っても少し降っている。 いつ天候が変わるか分からない上に、かなり積もった雪にカカシはいつもイルカの体を抱きかかえてくれた。 反対に、まったく無防備にされることもあり、逃げようと思えばいつでも逃げられたけれど、イルカはそうしなかった。 寒さを除けば楽しい雪は、他にも思わぬ贈り物をしてくれた。 とうとう念願のコタツがカカシの家にやってきたのだ。 買出しの途中、イルカが物欲しげにコタツを見ていたのにカカシが気づき、その場であっさり購入してくれたのだ。 暖房器具がまったくないカカシの家に、やっと到着したあたたかいコタツ。 さっそく亀の子のようにコタツと同化したイルカに、カカシは笑った。 カカシは前以上に喋らなくなったが、時々こうして笑う。 自分を見て、静かに微笑むのだが、どこか寂しそうで、嬉しそうで、言葉では言い表せないとても大人びた笑みだ。 その笑顔を見るたびに、イルカの胸がぎゅうと痛くなった。 どうしてそんな顔をするのか問いただしたい。 でも、たとえ喋れたとしても、カカシは答えないだろう。 こんなに近くにいて、前以上にカカシのことを理解しようと努力しているけれど、カカシは人間で、自分は犬で。 本当は互いのことは何にも知らなくて。 犬になってから半月以上経つ。 さすがに、イルカの不在に周囲の人間は騒ぎはじめているだろう。 だって積もった雪は体が埋まってしまうほどで、寒いの嫌だし、天候が変わりやすいし。 イルカはそう自分でいい訳をして、カカシの傍に居続けた。 時々、深夜にふと目を覚まし、カカシの姿を探す。 また暗部の仕事に出て、怪我をして帰ってきてないか気になるからだ。 すぐ傍に眠るカカシを見つけると、心の底から安堵する。 眠っている顔に鼻を近付け、体温を感じ取ろうとした。 イルカは胸にわきあがる寂しさと戸惑いに、カカシにぺったりとひっついた。 ついに雪が止んでしまった。 温かい気温に、積もった雪はみるみる溶けていく。 剥き出しになった地面を、イルカは窓から見詰めていた。 止んでしまった。 雪がとけたら、と何度も思っていたけれど、実際にその時がきても、まだ決断は出来なかった。 カカシが、ふいに服を着替え始めた。 彼が手にしたお面に、イルカは嫌な予感を覚える。 カカシが着込んだのは暗部の服だった。 今回はどんな任務なのか。 帰りを祈らなければならないものなのか。 自分は犬だが、帰りを祈るぐらいのことはできる。 やはり、帰るのはカカシが無事に戻ってきてからにしようとイルカは思ったが、 「おいで」 カカシが、外へとイルカを手招きした。 どうしたことかとついていくと、玄関の鍵を閉められる。 久しぶりの空は茜色だった。 雲が夕焼け色に染まっていて、山のように大きな雲が動くのを見上げていると、ふと声をかけられる。 いつもの顔が見えないだけで、これほど印象が違うのか。 オレねえ、ずいぶん忍犬飼ってるけど、人間が化けた犬はまだ調教したことが無かったんだ。 耳も尻尾も哀れなほどぺたりと下がり、大きな目には動揺の涙すら浮かぶ。 なんて滑稽な話か。 そして、なんて理不尽な話か。 カカシは人間と知った上で、人を犬扱いして、あげくペット扱いまでして、そして、飽きたと放り出すのだ! どうしてこんな奴と友達になりたいとなんて思ったのか。 自分のあまりのお気楽さに涙が出る。 悔しい。 俯いて背中を丸めるイルカに、カカシはまだ言葉を続けた。 「オレ、一応暗部にいるから。 人間に戻っても見たこと聞いたこと喋らないで。 オレに金輪際近付いちゃ駄目。 全部忘れるんだ。 始末されたくないでしょ? わかった?」 聞きたくない。 もう何も聞きたくない。 ぷるぷると頭を振ると、冷たい声が終わりを告げた。 「早く行きなよ。 泣きながら全力で。 振り返らない。 もう絶対に。 カカシは遠ざかっていく子犬の背を、ずっと見送っていた。

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NARUTOで最も悲しく切ないキャラクターはイタチではなくカカシである

動か ない カカシ

Text Killing Me Softly 優しく殺してください。 あなたの手で・・・ 俺の存在を許さないというのなら、せめてあなたの手で・・・ 男に抱かれた。 カカシ以外の男は初めてだった。 怖かった。 愛してもいない男に無理矢理突っ込まれる行為は苦痛以外の何ものでも なくてはいけなかった。 なのに、 なのに自分は感じてしまった。 その事実が受け入れがたく、恐ろしかった。 気づけば自分から腰を揺らしていた。 本能が悦楽を求めるさまに、理性はあきれていた。 なんで?どうして? びくびくと痙攣する体。 男が低い声を漏らして自分の中で精を放つ。 どくどくと体内を流れるそれが毒だったら良かった。 あの人にこの体を見られなくてすむのに。 カカシの任務中の出来事だった。 男は低く笑った。 「好きでもないやつに抱かれて感じるなんて、淫乱だな」 嘲るような響きが決してお前を愛して抱いたわけじゃないと告げる。 引きずり込まれた山中で、呆然としながら涙を流し続けるイルカは捨て 置かれた。 里の誇りと歌われる上忍の恋人、興味本位で抱いたのか、イルカの立場 に嫉妬したのか・・・やっかみなら慣れているつもりだった。 その体をさらせるか? あの人に・・・ イルカはカカシを愛していた。 心から愛していた。 彼が望むものなら何でも与えたいと願っていた。 だからカカシから付き合おうといわれたとき、本当に嬉しかったのだ。 でも、カカシはイルカが離れるのを怖がるように力で服従させた。 彼は頑是無い子供のように、イルカの心を信じようとはしなかった。 アナタは俺だけのもの。 離れることは許さないよ? ゆっくりと自分を束縛する腕は確かに間違ったものだったかもしれない。 けれど、イルカは自らカカシの手中に落ちた。 愛していたから。 いつか、彼が自分の無償の愛に気づけばいいと思いながら。 降り注ぐ暴力を、カカシの愛の数だと思った。 顔と体に降り注ぐ、大粒の雨。 だって、俺、あの人嫌いだもん。 分かってもらおうなんて思っちゃいないからさ そんな会話を、任務前にしていたっけ? 予定よりも早く着いた里で、さてどうしようか?とカカシが悩んでいたと きだ。 目前に大嫌いな人物を見つけて目を細める。 ああ、あんたが生きて同じ空気を吸ってるのかと思うだけで肌が泡立ちま すよ、イルカ先生。 おもしろい遊びを思いついて、目はますます細くなる。 アナタがいくら「はたけカカシ」を愛しても、あなたの大好きなはたけカ カシはアナタが大っ嫌いなんです・・・ 無償の愛だなんて、気持ちが悪い。 見知らぬ男に変化して、カカシはイルカを陵辱した。 恋人として抱くのとは違い、いたぶるように犯した。 何度も何度も中で放った。 肩をひっかかれても、殴りかかられても、全て押さえつけて歴然とした力 の差を見せつけた。 なんて快感。 生態系の中で三角形の頂に立つ者はきっとこんな愉悦を感じているんだ。 弱者を思うがままにいたぶれる。 悲鳴が心地よかった。 イルカはカカシに助けを求めている。 助けることなんて、するわけがない。 今アンタをいたぶってんのが大好きなカカシ先生ですよ。 何度耳元でつぶやきたくなったか。 イルカが壊れてもいいと思っていた。 ことが終わる頃、イルカはぐったりとして指先さえ動かせないでいるよう だった。 夜の闇に紛れて、カカシは変化をといた。 降り出した雨に気持ちよく、目を閉じた。 ほどよく疲れた体に生命の源は心地良い。 花街にでも立ち寄って、明日予定通りイルカの元へ帰ろう。 彼は覚えているかな? 命乞いをするかな? そんなの、関係なく斬るけどさ。 それはそれは楽しげに、カカシは闇に紛れた。 カカシは無言でその扉を開く。 忍びでないと分からない微かな気配をたどって、寝室へと足を向けた。 ことさらに明るく、何も知らないそぶりで壁際のスイッチを入れる。 ぱっと着く明かりに、部屋の片隅で蹲るイルカに目を向けた。 部屋着を着てシーツでくるまるイルカの、体をカカシが見れば、何が始ま るか分かっているのだろう。 「・・・あ、そうそう、お腹が減っちゃってさ〜何か用意してくれてた?」 イルカがそっと顔を上げた。 前髪で表情は見えないが、微かな声を聞き取ってにこりと笑う。 「ありがとう、・・・居間にいかない?一緒に食べましょうよ」 カカシの誘いに、イルカは喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。 何かを、覚悟するように。 「いただきまーす」 カカシは意外に思っていた。 居間の座卓の上にはちゃんと料理が並べられていたし、部屋もいつも通り 整理がされていた。 あんなことをされた後で、イルカは普通の暮らしを送っていたようだ。 カカシは自分が好物だと言った茄子のみそ汁に口を付けた。 甲斐甲斐しいねぇ 皮肉にそう思った。 「俺がいない間に何かありましたか?」 料理に箸を付けないイルカに問いかける。 正面の彼は、一度手にした箸をことりと置くと、意外にもまっすぐカカシ の目を見た。 「・・・お話ししなければならないことがあります。 俺は、昨夜見知らぬ男に ・・・襲われました」 さぁ、ショータイムのはじまりだ。 ここからは演技力がものを言う。 カカシは笑い出したいのをこらえて、剣呑な表情を作った。 「襲われたって・・・抱かれたってこと?」 「・・・はい」 「鈍くさいね、逃げれなかったの?大体、アンタ、俺っていうものがありな がらなに簡単に抱かれちゃってんの?」 「申し訳ありません・・・これを」 イルカは顔の正面で水平に持ったクナイを、カカシに手渡すように横に向 けた。 それを静かに受け取る。 意外にもあっさりとした結末を迎えようとするイルカに、カカシは少々お もしろくない。 泣き叫んで、命乞いして、抵抗するイルカを見たかったのに。 無様なまでに生に執着する男を嘲笑いたかったのに。 ・・・これでは、あまりにもつまらない。 場違いにも舌打ちをして、カカシはイルカを見た。 「・・・なにか、言い残すことは?」 「俺はカカシ先生を愛しています。 他の男に抱かれてしまったけれど・・・」 その一瞬だけ、イルカは澄んだ瞳を曇らせた。 瞬間、カカシの肌をざわりと鳥肌が立つ。 「最後までおめでたい人ですね、俺はアンタがこの世で一番大ッ嫌いなんで すよ」 叫ぶように告白しても、イルカは動じなかった。 クナイを手にしたまま殺気を放出するカカシを静かに見つめる。 「知っていました。 」 カカシの方がこれには驚いた。 完璧な芝居を見透かされていたのだろうか? その様子に自嘲的にイルカは微笑する。 あのときの一瞬で味わった至福と絶望。 校舎の窓辺に立って横に並んでいたカカシが、突如と切り出した話題。 聞き間違えじゃないかと喜びと不安で見上げた先、唇の端だけ優しげに笑 んだカカシの顔は目が笑ってはいなかった。 まるで顔の上半分と下半分とが別物であるかのように、カカシの唯一あら わになった右目はイルカを軽蔑と嫌悪の対象として見据えていた。 付き合ってくれませんかね? 酷く優しい声だった。 イルカは悲しくなった。 最初から、愛されようなんておもっていなかった。 けれど、嫌われているだなんて、思いもしなかった。 ただ、遠くから見つめるだけで良かったのに・・・ 残酷な人、 それでもイルカは傍にいられるという特権に根負けした。 「知らないと思っていましたか?・・・俺を踏みにじりたいと思うなら残念でし たね、俺は・・・幸せだったんですよ。 この上なく」 「だまれ!」 滅多に感情では動かないカカシが、怒りのままにクナイを振り下ろした。 「・・・っぅ」 イルカが畳に倒れる。 腹に突き刺されたクナイを見て、また笑った。 どくどくと畳にしみが作られる。 「最後まで、優しくしてくれないんですね」 掠れた声はなんとなく情事の時を彷彿とさせる。 立ちつくすカカシがイルカを異端者を見るかのように見下ろした。 心底、蔑 視したまなざし。 「どんな風に、殺す、つもりでしたか?・・・あなたの、予定で、俺は・・・っ、泣 き叫んで、命乞いをしていたんでしょうね」 急速に失われていく視力に抗うようにイルカは目を細めてカカシを視界に入 れた。 脳裏に焼き付ける。 最後まで氷の美貌は揺るがず、いつか、と願っていた優しいまなざしで見ら れることはなかった。 「俺は・・・あなたの手で、死ぬことを悲しまない。 永遠の幸福に思います・・・」 霞のように、カカシの銀色で視界は染め上げられ、白くなったかと思ううち に闇が訪れた。 痛覚は働いているはずだが、痛みはない。 痙攣する体が自分のものとは思えなかった。 腕を腹の上に持って行く。 愛用してきたクナイの柄を握った。 カカシが、握った柄だ。 自分の手をカカシの手の上に重ねたような錯覚が訪 れ、幸福感に満たされた。 本当は、愛されたかった。 穏やかに、愛し愛されたかった。 報われなくてもいい傍にいれるなら。 いつからかそう思い直した。 でも、それも叶わぬ望みだというならば、せめて・・・ あなたの手でこの命にピリオドを打って欲しい。 「・・・気味の悪い」 恍惚と微笑むイルカはカカシ以上の異常者に思えた。 自分の懐からクナイを取り出し、イルカののど笛めがけて突き立てた。 馴染んだ手の感触。 イルカの体が畳の上を何度か軽く跳ねて、動かなくなった。 生ぬるい風に包み込まれるような日常だ。 時折、風の音にのって自分を呼ぶ声が聞こえる。 2004.

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